カーボンニュートラルとは?企業が取り組むメリット・企業事例も

2024.04.19
カーボンニュートラル脱炭素

カーボンニュートラルとは、「温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡」を意味する言葉で、わかりやすく言うと温室効果ガスの排出量を全体としてゼロに抑えるというものです。

地球温暖化をはじめとした、深刻化する環境問題への対策として世界中で取り組まれており、日本も例外ではありません。日本では2050年までのカーボンニュートラル実現を目標として掲げており、政府や各業界が取り組みを進めています。

そこで今回は、カーボンニュートラルの基礎知識や世界・日本における動向、主な取り組み事例などをわかりやすく解説するので、ぜひご覧ください。

  カーボンニュートラルへ向けた、

企業が取るべき具体的アクションとは?

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするというものです。

そもそも温室効果ガスとは、赤外線を吸収する性質をもった気体のことで、具体的には「二酸化炭素(CO2)」「メタン」「一酸化二窒素」「フロン」などが該当します。中でもCO2は、温室効果ガス排出量の約9割を占めており、削減の重要性が非常に高まっています。

出展:環境省「2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値) 概要」(PDF)

カーボンニュートラルでは、こうした温室効果ガスの排出量を極力減らし、森林整備などを通して温室効果ガスを除去することで、排出と吸収量の差し引きゼロ(実質ゼロ)を目指します。

出典:資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」

出典:資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?」

カーボンニュートラルに注目が集まっている背景

カーボンニュートラルに注目が集まる背景には、「地球温暖化」が挙げられます。

濃度の高い温室効果ガスが大気中に放出されると、宇宙に逃げるはずだった熱が地表にたまり、結果として地球温暖化が引き起こされます。地球温暖化が進むと、世界全体の平均気温が上昇したり異常気象が増えたりする可能性が高いです。結果的に生態系の変化や農林水産業への打撃など、人々の生活・経済活動にあらゆる影響を及ぼします。

持続可能な社会を実現するためにも、地球温暖化への対策は世界各国における喫緊の課題として重要視されています。2021年4月時点では、125か国と1地域が「2050年までのカーボンニュートラル実現」を表明しています。

出典:資源エネルギー庁「第2節 諸外国における脱炭素化の動向」

出典:資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」

出典:資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?」


カーボンニュートラルに関する日本・世界の動向

カーボンニュートラルの実現に向けた具体的な目標やそれに対する取り組みは、国によって異なります。ここでは、カーボンニュートラルに関する日本・世界の取り組みをそれぞれわかりやすく紹介します。カーボンニュートラル達成に向けた世界各国の動きを知りたい方は、ぜひご覧ください。

日本での動向

日本におけるカーボンニュートラル実現に向けた取り組みには、「2050年カーボンニュートラル宣言」「グリーン成長戦略」「改正温対法の成立」の3つが挙げられます。

●2050年カーボンニュートラル宣言

2020年10月、当時の管首相による所信表明演説が行われました。
管首相は、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と表明しています。

●グリーン成長戦略

2020年12月、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました。2050年カーボンニュートラルに向け、民間企業の改革を促進し、挑戦を応援することを目的としています。産業として今後の成長が期待され、温室効果ガスの排出を削減する上で取り組みが不可欠と考えられる分野として、14の重要分野が設定されました。

●改正温対法の成立

2021年5月「地球温暖化対策の推進に関する法律」が成立し、略称として改正温対法と言われています。1998年の京都議定書が大枠となっており、2021年5月パリ協定のカーボンニュートラル宣言に伴い、3つの点(基本的理念の新設、計画・認定制度の創設、デジタル化・オープンデータ化)が改正され、定められました。

世界での動向

世界においても、さまざまなカーボンニュートラルの取り組みが行われています。

●京都議定書

京都議定書は、1997年に京都で採択後、2005年に発効されました。温室効果ガスの排出削減に関する国際的な取り組みとなっており、参加する先進国を義務の対象としています。具体的な削減目標としては、2008年から2012年までの間に、先進国全体で排出量を5.2%削減することを掲げました。具体的には、温室効果ガス排出量削減のための取り組みである「京都メカニズム」が制定され、施策が行われました。なお、日本は2013年以降離脱しています。

●パリ協定

2015年、パリで行われた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で合意されたものが、パリ協定です。京都議定書に代わる、すべての国が参加する合意となっています。2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みとなっており、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることなどが長期目標として掲げられました。

●国連気候行動サミット2019

2019年ニューヨークの国連本部で開催されたものが、国連気候行動サミット2019です。
平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以下を目指す「1.5度目標」を掲げ、各国に対策強化が求められました。

カーボンニュートラルにつながる取り組み

カーボンニュートラルの実現に向けて、温室効果ガスの排出量そのものを削減する必要があります。また、排出量削減のほかに、削減できなかった温室効果ガスを何らかの方法で吸収または除去するなどして実質ゼロにすることが欠かせません。

カーボンニュートラル実現に向けた取り組みは、「温室効果ガスの排出量を削減する取り組み」と「温室効果ガスを吸収・除去する取り組み」の2つに分類されます。

温室効果ガスの排出量を削減する取り組み●   再生可能エネルギーの導入
●   省エネ技術の活用
温室効果ガスを吸収・除去する取り組み●   ネガティブエミッション技術の活用
●   カーボンオフセットの活用
●   植林活動の推進

ここからは、それぞれの取り組み内容を順に説明します。

再生可能エネルギーの導入

日本では、主に「火力発電」という発電方法によって電力がつくられています。火力発電は石油・石炭・天然ガスといった化石燃料を燃やして得られた火力で発電する方法です。化石燃料を燃やすためCO2の排出量が多く、地球温暖化を進める1つの要因となっていることも実情です。

カーボンニュートラルの実現に向けては、地球上における自然の循環・プロセスにもとづきエネルギー源が生成される「再生可能エネルギー」の導入が重要視されています。

再生可能エネルギーとは、地球上に常に存在する自然エネルギーのことです。

エネルギー源発電方法
太陽エネルギー太陽光発電
風力エネルギー風力発電
水力エネルギー水力発電
バイオマスエネルギーバイオマス発電

化石燃料などの有限資源とは違って、資源が枯渇することなく繰り返し活用できるほか、発電時のCO2排出量を大幅に削減できます。

再生可能エネルギーの導入は世界中で徐々に増加しており、近年では「省エネ住宅」として、自宅に太陽光発電設備を導入するケースもよく見られます。

省エネ技術の活用

省エネ技術の活用も、温室効果ガス削減に大きくつながる取り組みです。省エネ技術は、「パッシブ技術」と「アクティブ技術」の2つに分類されます。

パッシブ技術とは、必要なエネルギー量を削減するための技術のことです。例えば、室内で使用する冷暖房のエネルギー量を削減するために建物の外皮を断熱素材にし、できる限り快適な室温に保つという方法はパッシブ技術にあたります。

そしてアクティブ技術は、エネルギーを無駄なく効率的に利用するための技術のことです。アクティブ技術を用いてつくられた省エネ設備の例としては、LED照明が代表的と言えるでしょう。LED照明のエネルギー効率は従来の白熱灯照明よりも圧倒的に高いことから、世界中で普及が進んでいます。

エネルギーの消費量が多い工場の場合、使用設備を省エネ技術に見直すだけでも、温室効果ガス排出量の大幅な削減につながるでしょう。

ネガティブエミッション技術の活用

再生可能エネルギーの導入や省エネ技術の活用がどれほど進んでも、温室効果ガスを100%排出させないようにすることは不可能です。どうしても削減できない温室効果ガスを吸収または除去するためには、「ネガティブエミッション技術」の活用が有効となります。

ネガティブエミッションとは、大気中に蓄積された温室効果ガスを吸収・除去する技術の総称です。具体的には、バイオマス発電所から排出されるCO2を回収して地中に貯留する「BECCS」や、大気中に存在するCO2を直接回収して地中に貯留する「DACCS」が挙げられます。

海外では、大企業を中心にネガティブエミッション技術の活用が進んでいます。

カーボンオフセットの活用

カーボンオフセットとは、温室効果ガスの削減が難しい企業が排出量に見合った投資を行い、削減できなかった温室効果ガスを埋め合わせるという考え方のことです。

自らの温室効果ガス排出量を把握し、削減に向けた努力をするとともに、CO2の削減事業活動に対する投資という形で削減・吸収に取り組む方法となります。温室効果ガスの排出量削減に向けた直接的なアプローチではないものの、カーボンニュートラルを達成するための1つの手段です。

なお、再生可能エネルギー・省エネ設備の導入もカーボンオフセットの一種となります。

植林活動の推進

植林活動は、伐採跡地・空き地に樹木を植える活動のことで、2020年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」より前から推進されている地球環境の保全活動です。

成長段階にある樹木は、CO2を吸収するはたらきをもっています。植林活動の推進によって、大気中に放出されたCO2の吸収と酸素の排出が期待できるでしょう。

カーボンニュートラルの達成に向けたあらゆる手法の中でも、環境負荷が最もかかりにくいことが特徴です。森林クレジットを利用すれば、個人でも参加できます。

カーボンニュートラルに関する課題

現在では、カーボンニュートラル達成に向けた取り組みが世界中で進められています。しかし、取り組みを進めるにあたってはいくつかの課題をクリアしなければならない点に注意が必要です。

カーボンニュートラルに関する主な課題としては、「CO2削減目標の設定が難しい」「CO2削減の検証が難しい」の2点が挙げられます。ここからは、それぞれの課題についてわかりやすく紹介します。

CO2削減目標の設定が難しい

世界各国のCO2排出量は、生産ベースで計測されることが基本です。しかし、こうした計測方法では、先進国が有利に、開発途上国が不利となってしまい、国ごとの格差が生じやすくなっています。

なぜなら、開発途上国はインフラ整備に向けてCO2を多く排出しなければならないほか、化石燃料の依存度も特に高いためです。

加えて、先進国の企業が製造コストを削減するために開発途上国に工場を保有することも大きく影響しています。先進国などに輸出する製品の生産過程で開発途上国の工場から排出されたCO2は、その開発途上国のCO2排出量として計測されてしまいます。

開発途上国のCO2排出量は自ずと増加するため、先進国・開発途上国双方のCO2削減目標を適切に設定することが困難な状況にあることを覚えておきましょう。

CO2削減の検証が難しい

カーボンニュートラルの実現に向けて、温室効果ガスの排出量と削減量を正確に計測しなければなりません。しかし、代表的な温室効果ガスと言えるCO2でも、大気中の濃度はわずか0.03%程度となるため、高度な測定技術が不可欠です

現時点で存在する計測器の精度では、温室効果ガスを直接かつ正確に測定できず、IPCCが策定したガイドラインに沿って算出するほかありません。しかし、計測器の精度の限界から科学的なエビデンスにもとづいた厳格な議論は難しいと言えます。

企業がカーボンニュートラルに取り組むメリット

カーボンニュートラルに取り組むことで、企業にとってもメリットがあります。

どのようなメリットがあるのか、見ていきましょう。

●自社の企業価値が向上する

環境問題に対して企業がどのような取り組みを行っているかが、顧客や取引先、投資家などからの評価を左右します。ESGやSDGsに取り組むことで、温室効果ガスの削減に貢献している企業と認識され、企業価値向上につながるでしょう。

●補助金や優遇制度が利用しやすくなる

カーボンニュートラルに取り組む企業に対して、国は補助金や税制面での優遇などを設けています。経営面においても、支援を受けることができるというメリットがあります。

●コストの削減につながる

カーボンニュートラルを達成するために、再生可能エネルギーを利用したり、省エネを推進したりすることで、コストの削減効果が見込めます。燃料費や光熱費の削減が期待できるため、コスト面でもメリットがあると言えるでしょう。

●投資家や金融機関からの信頼や評価を得られる

投資の世界においても、カーボンニュートラルへの注目は高まっています。
今後、ESG経営を行う企業が評価されることを想定し、投資家たちは投資対象を選択するようになってきました。「ESG投資」と言われるESGの要素を重視した投資手段も、広まってきています。

●社員の意識改革やモチベーションの向上につながる

企業としてカーボンニュートラルに取り組むことで、社員たちは「自社が環境問題や気象変動への解決に取り組んでいる」「社会的貢献を果たしている」と認識することができます。特にZ世代と呼ばれるような若い世代を中心に、SDGsへ対する関心は高まっています。自社の取り組みに対して、共感や信頼を得ることでモチベーションにつながったり、共感する人材を獲得したりすることも期待できます。

カーボンニュートラルに取り組む企業事例

最後に、すでにカーボンニュートラルに取り組んでいる国内企業と海外企業の事例を紹介します。実際に企業ではどのような取り組みが行われているかを知りたい方は、ぜひご覧ください。

国内企業の事例:セコム株式会社

セコム株式会社では、2045年までにカーボンゼロを達成することを目標としています。

具体的な取り組みとしては、グループ全体で保有する9,000台の車両において、走行距離・燃料使用量・燃費をすべて管理しています。

また、2030年度までにはすべての四輪車両を「電動車」に、2045年度までには二輪を含む全車両を「電気自動車・燃料電池自動車」にすると掲げました。

さらに、2022年からは化石資源由来のプラスチックの使用をゼロにする取り組みも始め、積極的にカーボンゼロに向けた活動を行っています。

【参考】脱炭素・循環型社会|サステナビリティ重要課題課題|セキュリティのセコム株式会社-信頼される安心を、社会へ。

海外企業の事例:スターバックス

スターバックスでは、2022年にCO2、水、廃棄物のフットプリントを半減するという目標を発表しました。

具体的な取り組みとしては、2030年までにカーボンニュートラルなグリーンコーヒー(生豆)を実現することで、加工過程で使われる水量を50%削減することを掲げています。

さらに、気候変動が良質なコーヒーの生産に影響を及ぼしているとして、生産者とともに農場におけるCO2排出量の削減を目指しています。

【参考】スターバックスが掲げる、コーヒーに関する環境目標 – Starbucks Stories Japan

まとめ

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡によって、温室効果ガス排出を差し引きゼロにするというものです。環境問題への対策として世界中で取り組まれており、日本企業でもカーボンニュートラルへの取り組みが進んでいます。

カーボンニュートラル達成に向けた具体的な手法としては、「再生可能エネルギーの導入」「省エネ技術の活用」のほか、「ネガティブエミッション技術の活用」などが挙げられます。

企業がカーボンニュートラルに取り組むことで、さまざまなメリットを得られます。この機会に、ぜひカーボンニュートラル達成に向けた取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。

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