【2023年5月】電気料金は今後も高くなる?電力マーケットの現状と企業が取るべき対策について徹底解説!

2023.05.17
コスト削減電力卸売市場電力業界制度

エネルギー価格の高騰やウクライナ情勢など影響を受けて、電気料金の値上がりが続いています。
大手電力会社のうち7社が4月から標準料金を大幅に値上げしました。

今後の電気料金がどうなるのか、心配されている企業も多いのではないでしょうか?

このコラムでは、電気料金高騰の要因をおさらいし、電気受給契約においてどのような選択肢があるのかを解説。少しでも電気料金を抑えたい企業へコスト削減のポイントをお伝えします。

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電気料金値上げのメカニズム

現在の電気料金高騰の原因を一言で表すと、「小売電力会社の仕入れが高騰したため」という事になります。
では、「小売電力会社の仕入れ」とは何かというと、「電源調達費」となります。
小売電力会社が電源を調達する方法としては、主に3つの方法があります。

  1. ①自社保有の発電所の電源
  2. ②発電事業者からまとまった電源を購入(相対契約)
  3. ③電力卸売市場から購入(市場調達)

上記の①②については、エネルギーの輸入価格がダイレクトに影響し、燃料費調整額という形で電気料金に反映される仕組みになっています。

③については、少し性質が異なります。
電力卸売市場は、発電事業者の「売り入札」と小売電気事業者の「買い入札」で相場が決まります。
「売り入札の価格と量」、「買い入札の価格と量」のバランスに加え、筆者の意見としては、「市場心理」が働き相場が作られていると考えます。
2021年秋頃~2022年中は、需給がひっ迫していると言われていた事も市場価格が高止まりしていた要因ではないかと思います。

電力卸売市場の仕組みや問題点などを詳しくお知りになりたい方は、日経エネルギーNEXTをチェックされる事をお勧めします。

小売電力会社の電源調達費が高騰した要因をまとめますと、以下の3つになります。

  • 燃料費(エネルギー輸入価格)の高騰
  • 需給ひっ迫(需要量に対し供給する電力が足りない)
  • 電力卸売市場の高騰

では、それぞれのデータを見てみたいと思います。

燃料費の高騰(=燃料費調整額の高騰)

以下のグラフは、2018年4月~2022年12月のエネルギー輸入価格の推移です。
日付が見づらいですが、2022年10月前後から過去のレンジを超え高騰している事がわかります。

エネルギー輸入価格推移(World Bank Commodity Price Data (The Pink Sheetより)

需給ひっ迫

次は、電力の需給バランスを見てみたいと思います。
エリア毎の送配電事業者が、需給バランスを発表していますが、今回は電力卸売市場に影響を与える要因として、電力卸売市場の「売り入札量」と「買い入札量」のバランスを見たいと思います。
以下のグラフは、2018年4月~2022年12月の電力卸売市場で取引された入札量と約定量の推移です。

電力卸売市場(JEPX)の取引量推移

2020年冬に買い入札が売り入札を大きく上回っている事がわかります。
その後も買い入札が多い月が目立っていますね。

市場価格の高騰

そして、卸売市場価格です。
2018年~2022年12月の電力卸売市場の東京と関西のエリアプライスを見てみましょう。

電力卸売市場(JEPX)エリアプライス推移 2018年4月~2022年12月取引

やはり、2020年冬に価格が高騰しています。このときの高騰の要因は、国内のLNGが不足したことにより発電量が確保できなかった事だと言われています。その後、少し市場が落ち着きますが、2022年10月頃から上がり、高い水準を維持しています。このときの高騰の要因は、エネルギー価格の高騰と円安と言われています。

この結果、電源調達コストを販売価格へ反映できなかった電力会社は、値上げ、解約(供給停止)、新規受付停止という対策を取らざるを得ず、多くの事業者が事業撤退に追い込まれたという訳です。

過去の取引でも買い入札が上回っているが、市場価格は落ち着いているのは何故?と思われた方は、是非、日経エネルギーNEXTをご覧ください。

では今後の電気料金は?

今後の電気料金がどうなるのか、気になるところです。
先に紹介した高騰の要因以外にも、電力業界の制度変更なども含め料金に関わる項目を見ていきたいと思います。

エネルギー価格は高止まり予測

エネルギー価格は2023年に入り下落し、燃料費調整額も下がりましたが、それでも過去の水準まで下がるのは遠そうです。

エネルギー輸入価格推移(World Bank Commodity Price Data (The Pink Sheetより)

世界銀行が一次産品価格の見通しを発表していますが、「2023年のエネルギー価格は依然としてこの5年間の平均を75%上回る水準となるであろう」とされています。*1

市場価格は落ち着きを取り戻し、健全な動き

2023年に入り、電力卸売市場は落ち着きを取り戻しています。
東京エリアで、2022年は年間平均へ25円/kWhを超えていたエリアプライスが、以下の月平均で推移しています。

2023年1月:19.84円/kWh
2023年2月:15.79円/kWh
2023年3月:11.15円/kWh
2023年4月:9.80円/kWh
2023年5月:11.23円/kWh(5/1~5/17の平均値)

電力卸売市場(JEPX)取引価格推移 2018年4月~2023年5月17日取引


エネルギー価格のグラフと見比べていただくと、動きに相関性がある事がわかると思います。
現状は、健全な市場の値動きをしていると言っていいかと思いますが、需給がひっ迫すると市場価格は上がる可能性が高くなります。

2023年の電力供給力は、確保できる見通し

需給ひっ迫の可能性を判断する指標として、「予備率」というものがあります。
電力の予備率とは、電力需要に対して供給余力がどの程度あるかを示したものになります。
電力の需要は3%程度のぶれがあるため、安定供給には予備率3%を確保する事が必要とされています。

2023年3月21日に、資源エネルギー庁が発表した内容では、2023年夏季は多くのエリアで予備率10%以上を確保できる見通しとされています。しかし、東京エリアは7月の予備率が3%と最低限のラインになっており、卸売市場の高騰が懸念されます。*2

託送料金改訂による電気料金の値上げ

託送料金とは、小売電力会社が各エリアの送配電事業者に支払う、電気の通行料のようなものです。
電気を販売するのは小売事業者ですが、送配電事業者にはその電気を送る義務があり、小売電力会社は供給する電力量に応じて託送料金を支払う事が法令で定められています。

その託送料金が、2022年4月から値上げされています。
値上げの理由としては、再生可能エネルギーで発電された電気を送るための設備の新設、老朽化している送電線の更新などのため、収入を増加させる必要があるとされています。

小売電力会社は、託送料金を電気料金から回収します。
託送料金値上げは、殆どの場合、電気料金の値上げに直結します。

小売電力会社の容量拠出金負担による電気料金値上げ

消費者団体からも意見書が出されるなど、問題になっている容量拠出金についても触れておきたいと思います。

容量拠出金とは、容量市場において供給力を確保するために、小売電気事業者および 一般送配電事業者が支払うお金です。
容量市場の仕組みを簡潔に説明すると、国全体で必要な供給力(発電量)を確保するため、送配電事業者と小売電気事業者がそれぞれ負担する容量拠出金を発電事業者に渡す制度です。発電所の建設・運営に必要な固定費の一部を小売電気事業者が負担することで、発電事業者が発電所を維持できるようにするのが目的とされています。

小売電気事業者は、2024年から容量拠出金の支払い義務が発生します。
この負担額は、1kwhあたり3円以上とも言われており、小売電力会社が許容できる額ではありません。
必然的に、電気料金に加算される事になり、2024年以降の電気料金は、容量拠出金分の値上げが予測されます。*3

エネルギー価格や卸売市場価格は、ここ2年間と比較すると落ち着きを取り戻していますが、2017年~2020年の頃のような価格競争は期待できる状況ではありません。

託送料金の値上げ、容量市場開始による値上げは避けられないため、何も対策を取らなければ電気料金は上がる一方です。

では、どのような対策を取ればいいのでしょうか。

動き出した電力小売り会社

2022年の電力小売りマーケットは、ほぼストップしていたと言えます。
新規受付をしている会社は、市場連動型プランのみで、市場価格は高止まりの状況で、多くの需要家が最終保障供給に留まるという事態になっていました。

2023年に入り電力卸売市場も落ち着きを見せ始め、最近は新規受付を再開する電力会社が増えています。

新規受付を再開している電力会社の特徴

先にも書きましたが、小売電力会社が値上げ、解約、事業撤退に追い込まれた理由は、電源調達費が高騰し、それを販売価格へ転嫁できなかったためです。

新規受付を再開している小売電力会社は、電源調達費が高騰した際のリスク回避ができるプランを持っている会社となります。

多様化する電気料金プラン

上述の通り、小売電力会社は電源調達費を販売価格から回収できる料金構成にする必要があります。
電源調達方法は会社によって異なりますので、料金構成や計算ロジックも会社よって異なります。
2年前までは、「燃料費調整額」をほとんどの電力会社が大手電力(旧一般電気事業者)と同じロジックで設定していたため、需要家は、基本料金と従量料金を比較すればよかったのですが、もはやそのような時代ではなくなってしまいました。

電気料金のメニューは多様化し、エネルギー価格に加え、卸売市場価格の影響は避けられない状況となっています。

では、現在電力小売りマーケットで新規申込が可能な料金プランとその特徴を紹介したいと思います。

燃料費・市場価格調整型プラン

従来の料金プランに一番近い形が「燃料費・市場価格調整型」です。
東京電力エナジーパートナーや東北電力、中部電力など、ほとんどの大手電力会社が従来の燃料費調整額に市場価格調整額を追加し、「燃料費等調整額」としたことで、多くの新電力にも採用され、スタンダードになりつつあります。

基本的には、基本料金と従量料金を軸として、エネルギー価格や市場価格に基準価格を設定します。その基準価格より高い場合はプラスの調整が働き、基準価格よりも低い場合はマイナスの調整が働きます。今までは当たり前に存在していた制度ですので違和感はありませんが、基準価格の妥当性に関しては不透明さが残ります。

燃料費・市場価格調整型の電気料金プラン

燃料費・市場価格調整型プランの特徴

  • 燃料価格と卸売市場価格両方の変動による影響を受ける
  • 燃料・市場価格の調整を過去3か月の平均値を使用する事が多いため、変動が比較的緩やか
  • 基本料金や従量料金に電力会社のリスクプレミアムが乗っているため、卸売市場が落ち着いても高い料金を支払うことになる。

独自燃料費調整型プラン

従来の燃料費調整制度と同じ考え方の料金構成です。
電力卸売市場から電源を調達しない電力会社は、こちらの料金構成にしている事があります。
過去のように、大手電力会社と同じロジックではなく、自社の電源構成(石油、石炭、LNGなど、使用するエネルギーの比率)に合わせた計算ロジックとなっています。

こちらも、上記のプランと同様に基準価格が設定されていますが、その妥当性も同様に不透明さが残ります。

独自燃料費調整型の電気料金プラン

独自燃料費調整型プランの特徴

  • 燃料価格の変動にのみ影響を受ける
  • 燃料価格の調整を過去3か月の平均値を使用する事が多いため、変動が比較的緩やか
  • 特定のエネルギーに依存している場合は、燃料費調整額が大幅に上がる可能性がある。

市場連動型プラン

市場連動型プランは、卸売市場が高騰した際にダイレクトに影響を受けますが、市場が下がった時の恩恵も多く、実はとても透明性のある料金プランだと言えます。
従量料金に該当する項目が卸売市場のエリアプライスと連動し、手数料や諸費用は別途明示されているため、電力会社の手数料や諸経費が明確に判別できるのです。

例えば、2023年4月の東京エリアのエリアプライス月平均は9.80円/kWhでしたよね?
そうすると、従量料金は9.80円/kWhとなるわけです。その他費用が5円/kWhだとしても14.8円/kWhです。東京電力エナジーパートナーの業務用電力が22.68円/kWh(その他季)ですので、卸売市場が下がったときのメリットが大きい事がわかります。

市場連動型の電気料金プラン

市場連動型プランの特徴

  • リアルタイムで卸売市場の影響を受ける
  • 卸売市場が落ち着いた際の下限かなく、電気料金が安くなる
  • 燃料価格の変動には影響されない
  • エリアプライスの安い時間に電気を多く使っているなど、電気の使い方によってはメリットが大きくなる

完全固定型プラン

最後に、基本料金も従量料金も固定単価とし、エネルギー価格にも市場価格にも影響されない完全固定型を紹介します。
取引価格と取引量を固定して、電力先物取引市場から調達する方法です。
卸売市場と比較すると単価は高めになりますが、4種類の中で最もコストが安定する料金構成です。

市場連動型を敬遠する理由は、コストが安定しないからという需要家も多いと思いますが、燃調費調整も市場価格調整もコストが安定しない十分な要素です。
完全固定型であれば、変動の要因は自社の使用量のみとなり、予算が立てやすいため、エネルギー価格や市場価格変動時にインパクトが大きくなる、規模の大きい工場などは、事業計画を立てやすく高騰のリスクも回避できるというメリットがあります。

完全固定型の電気料金プラン

完全固定型プランの特徴

  • エネルギー価格や市場価格高騰の影響を受けない
  • エネルギー価格や市場価格が下落した際は、市場の水準よりも高い料金を支払う事になる
  • 全ての単価が固定されるため、コストが安定する

料金構成の異なる電気料金の比較方法

このように、電気料金プランは多様化しており、先述のとおり、基本料金と従量料金を比較すればいい時代ではなくなってしまいました。

我々のような専門家は、料金構成と各調整項の計算方法を読み解いた上で、直近1年間の電気使用量で試算します。その上で、エネルギー価格と卸売市場価格のシナリオを数パターンでシミュレーションし、一番相性の良さそうな料金プランを選択します。

しかし、一般の需要家はそこまで深掘りするのは難しいと思います。
かと言って、小売電力会社から提出された見積りだけで判断するのは、比較としては不十分です。

そこで、最低限確認すべき事を以下に記載いたします。

料金構成の把握

  • 基本料金と従量料金以外にどのような項目で構成されているのか
  • 見積の合計額に全ての項目が含まれているか

電気使用量と料金算出期間の確認

  • 各見積りの電気使用量が同じ量で計算されているか
  • 適用されている調整単価や市場価格が、電気使用月と同じ期間で計算されているか

燃料費・市場価格の影響を確認

そして、できれば影響を受けやすいエネルギーの種類、市場価格にどの程度の割合で影響を受けるのか、確認するといいと思います!

本コラムをお読みの方は、電気料金の比較にお悩みだと思います。
当社が使用している電気料金の簡易比較表を無料でダウンロードしていただけますので、是非ご活用ください。

まとめ

エネルギー価格はかつてないほど高騰し、現在もまだ不安定な状況です。
今後も電気料金が値上がりする要素もあり、私たち需要家は賢い選択を迫られています。

本コラムをここまで読んでくださった方には、自社に合った電気料金プランを見定め、合理的な判断をしていただきたいと願います。

ホールエナジーは、公正・中立的な立場から、企業の電気契約の最適化や再生可能エネルギーの導入支援を行っております。
市場には出ていない電気料金プランの取り扱いもありますので、契約先の選定にお困りの方は、是非ご相談ください。

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参考記事
*1 通貨安で途上国の食料・エネルギー危機が深刻化 世界銀行 プレスリリース 2022年10月26日
*2 電力需給対策について 資源エネルギー庁 2023年3月29日
*3 容量市場について 資源エネルギー庁 2023年1月27日