炭素税とは?各国の現状や導入するメリット・デメリットも解説

2024.01.30
ESGカーボンニュートラル電力業界制度

現在日本では、炭素税の導入が検討されています。簡単に言えば、「CO2を排出すると税金がかかる」ということです。

「再エネの電気を使うとコストアップするのではないか」と思われる方は少なくないでしょう。しかし、再エネを使ってCO2排出量を減らしたほうが、コストが下がる時代がもうすぐやってくるかもしれません。

今回は、電力部門と絡めながら炭素税や、カーボンプライシングの種類、炭素税のメリット・デメリットなどをご紹介します。

  カーボンニュートラルへ向けた、

企業が取るべき具体的アクションとは?

炭素税とは?

炭素税とは、環境破壊や資源の枯渇に対処することを目的とした取り組みを促進する環境税の一種です。

化石燃料に炭素の含有量に応じて税金を課し、化石燃料やそれを使用した製品の製造・使用の価格を引き上げることで需要を抑制し、環境資源の浪費と二酸化炭素の排出量を抑える税制です。化石燃料とは、石炭・石油・天然ガスを指します。

実は、すでに国内では2012年から炭素税の一種として二酸化炭素排出量に応じて、原油やガスなどの化石燃料の輸入業者らに課税する地球温暖化対策税(温対税)を導入しています。しかし、1トンあたり289円となっており、欧州と比べて税率が桁違いに低い状況です(スウェーデンでは15,600円)。

例えば、電力使用に伴うCO2排出量が年間500トンあったとします。

289円の場合      :289円×500トン=144,500円
15,600円の場合 :15,600円×500トン=7,800,000円

約54倍の差であり、このように比較すると、海外と日本の炭素税に、ずいぶん差があることが分かります。

ただし、いきなり欧州並みの水準まで引き上げると、経済や社会へ大きな影響を与えてしまうでしょう。炭素税を導入するとなれば、そのコストは段階的に引き上げられると考えられています。

炭素税に関する各国の現状

炭素税は、地球温暖化対策の一環として、化石燃料の消費に課せられる税金であり、各国の環境政策や経済状況に密接に関連しています。特にヨーロッパ諸国を中心に普及しており、導入や運用においては、以下のように国によって異なるアプローチが見られます。

フィンランド
フィンランドは、1990年に世界で初めて炭素税の導入に踏み切った国で、2011年には熱利用と輸送用燃料の税率を分離するエネルギー税制改革を実施しました。
スウェーデン
スウェーデンでは1991年に炭素税を導入し、2018年には産業部門の軽減税率を廃止して本則税率に一本化しました。
スイス
スイスでは2008年に輸送用燃料を除く化石燃料消費に対する炭素税を導入し、税収は一般会計に入り、さまざまな目的に利用されています。

これらの国々の事例から、炭素税の導入はヨーロッパを中心に進んでいることが分かります。各国が採用している税率や課税対象、税収の使途などは異なります。しかし、

共通しているのは地球温暖化対策への貢献と、エネルギー消費の効率化や再生可能エネルギーへの移行を促進することです。

出典:環境省「炭素税について」

カーボンプライシングの種類

カーボンプライシングとは、企業やその他の主体が排出するCO2に価格を付け、排出者の行動を変化させるために導入される政策手法です。

炭素税や排出量取引制度などの有名な手法をはじめ、環境対策としての効果を高めるため、さまざまな手法が採用されています。

カーボンプライシングは大きく分けて、「政府によるカーボンプライシング」と「インターナル(企業内)カーボンプライシング」「民間セクターによるクレジット取引」の3つのカテゴリーに分類されます。

政府によるカーボンプライシングは、さらに明示的カーボンプライシングと暗示的カーボンプライシングの2つに細分化されます。

府によるカーボンプライシング明示的カーボンプライシング
炭素の排出に対して1トン当たりの価格が明示的に設定されます

暗示的カーボンプライシング
CO2排出量ではなくエネルギー消費量に対して課税されるものや、規制・基準の遵守に関連するコストが発生する場合を指します。
インターナル(企業内)カーボンプライシング企業が自社のCO2排出に対して独自の価格を設定し、その価格を投資判断や経営戦略に活用する方法です。
民間セクターによるクレジット取引CO2削減や環境保護に寄与するプロジェクトを通じて得られる環境価値を市場で取引する方法です。

炭素税のメリット・デメリット

日本を含む多くの先進諸国では、炭素税の導入が議論されてきました。実際に炭素税を導入した国もあれば、炭素税の導入がまだ行われていない国もあります。国によって対応が異なっている理由は、炭素税にはメリットだけではなく、デメリットもあるためです。ここでは、炭素税を導入するメリット・デメリットについて、詳しく解説します。

メリット

炭素税導入の主なメリットは、

予見可能な税率によるビジネスの計画性向上、既存の税制を活用することによる行政コストの低減、温室効果ガス排出削減への直接的な貢献などです。

炭素税は企業や消費者の環境意識を高め、省エネ製品への関心や投資を促進するでしょう。

さらに、炭素税からの収益は、新エネルギー技術の開発や社会保障政策に再投資され、広範な社会的利益を生み出す可能性もあります。実際に、炭素税を導入した国々ではCO2排出量の減少が確認されており、地球温暖化対策の効果的な手段であることが示されています。

デメリット

炭素税の導入は、温室効果ガスの削減を目指す有効な手段ですが、

いくつかのデメリットも存在します

まず、炭素税はCO2の排出量を直接制御するものではないため、実際の排出削減量については不確実性が残ります。税率が定められていても、排出量の具体的な減少を保証するものではありません。

また、炭素税は低所得者層に対して逆進性を持つという問題があります。生活必需品への支出割合が高い低所得者ほど、炭素税の影響を大きく受ける可能性があり、家計への負担が増加することが懸念されます。

さらに、炭素税は特にエネルギー集約型の産業、例えば鉄鋼業や化学業界など、CO2の排出量が多い業界に大きな影響を与える可能性があるでしょう。これらの業界におけるコスト増加や国際競争力の低下につながる恐れがあります。炭素税が導入されていない国との競争では、環境に配慮する国が不利になる可能性も否めません。

税収の再配分や低所得者層への補助などの政策により、これらの問題をある程度緩和することは可能ですが、完全な解決には至らないかもしれません。炭素税の導入に際しては、それぞれのメリット・デメリットを総合的に考えながら、引き続き議論が行われそうです。

出典:経済産業省「成長に資するカーボンプライシングについて③ ~炭素税、排出量取引、クレジット取引等~」

炭素税導入に向けた対策のポイント

将来的な炭素税導入の可能性を見越して、その動向を定期的にチェックし、自社の二酸化炭素排出量を把握することが重要です。

炭素税やカーボンプライシングの具体的な実施時期や内容はまだ未定なので、最新の情報を把握できるようにしておきましょう。また、自社の二酸化炭素排出量を正確に把握することは、炭素税導入時の負担を理解し、削減の可否を判断する上でも有効です。

CO2排出削減に関しては、炭素税ではなく、インセンティブ方式にしたほうが望ましいとの議論もあります。インセンティブ方式とはCO2を削減すると、補助金がもらえたり、減免措置が行われたりすることを指します。

炭素税により徴収を行うことは、消費者にとって、行動を促すきっかけになると言えるでしょう。ただし、CO2を排出していることに変わりはありません。一方でインセンティブ方式にすれば、CO2排出を減らせば減らすほど、消費者にとってもメリットがあります。

このように考えると課税をするより、プラスの要素があるインセンティブ方式のほうが、カーボンニュートラルへの動きは加速するとも考えられそうです。いずれにしても、CO2排出することがコスト面でデメリットになる未来は近づいてきていると言えるでしょう。

炭素税と電力部門の関係

炭素税が導入されると、電力部門にさまざまな影響を与えます。最後に炭素税と電力部門の関係として、特に重要な下記の2つのポイントをご紹介させていただきます。

(1)炭素税の導入による電気代の上昇
(2)エネルギー源の転換

炭素税の導入による電気代の上昇

炭素税が導入(もしくは温対税の増税)されることによって、炭素税分が各電力会社の電気代に上乗せされることが予想されます。

そうなると、火力などで発電された電気のほうが、再エネの電気よりも高くなる可能性があります。自社で使う再エネ電気を増やすことは、コストアップではなく、コストダウンになる日がくるかもしれません。

エネルギー源の転換

今までガス給湯だったものを電気に換える、ガソリン車を電気自動車に換える、などがあげられます。

これらによって、ガスやガソリンにかかっていた炭素税分の料金がなくなります。その分は電気代に炭素税分が上乗せされますが、その電気を再エネで賄っていれば、炭素税を抑えることが可能です。

今後、カーボンニュートラル実現に向けては、エネルギー源を電気に換える動きは加速すると言われています。エネルギー源転換による脱炭素は要チェックと言えるでしょう。

まとめ

炭素税に関しては、今はまだ議論の途中で、具体的なところまでは決まっていません。しかし、少なくともこれからCO2排出がコスト面にさらに影響を与えることは間違いないでしょう。早めの情報収集、早めの取り組みが、数年後に違いを生みます。今後の動向からも目が離せません。

弊社、ホールエナジーでは、電力と再エネに特化したコンサルティング会社として、再エネの導入やカーボンニュートラル実現のサポートを得意としています。
電力の再エネ化をはじめ、非化石証書購入代行やコーポレートPPAのアレンジなど、お客様のご状況に応じて対応させていただきます。

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